
ムーンライトにゆれながら
今回の旅の参加者は、私と、高校からの友人二名の、計三名である。
そのうち一人は、部活(自動車部)の合宿と、予選日の日程が重なってしまったため、
決勝日のみの観戦となった。
旅のコンセプトとして、
「なるべく金をかけない」
ということが叫ばれていたので、
鈴鹿までの交通には、「夜行列車」が選ばれたのである。
我々と同じような旅行プランを立てている人は意外に多いらしく、
東京駅の東海道線ホームには、思い思いのキャップやブルゾンでキメた人が多く見られた。
我々が乗り込んだのは、23時43分発の「ムーンライトながら」。
快速ではあるが、列車そのものは特急のものである。
でも、椅子は布団より硬いし、
周りにはF1ファンのざわざわが漂っている。
安眠とは程遠い環境で、眠りについた……。
この列車は東海道をひた走り、翌朝には名古屋に着く。
新幹線で行けばよかった、と思った。
四日市とコンビニと天むすと
翌朝。午前6時、名古屋に到着。
駅構内には、発売延期になったプレイステーションソフト「FORMULA1 97」のポスターが悲しくも貼ってある。
しかし、いよいよF1はじまるんだな、という気にはさせてくれた。
ここからは、今回の旅の秘密兵器が登場する。
「周遊きっぷ」だ。
今回、我々の泊まるホテルは名古屋になってしまった。
それは、鈴鹿近辺のホテルは、関係者と熱烈ファンで占拠されてしまっているからである。
そのため、鈴鹿サーキットと名古屋を、往復しなければならない。
そのロスを最小限に食い止めるのが、「周遊きっぷ」である。
周遊区間は、名古屋〜四日市である。
さて、我々は名古屋から一路、鈴鹿サーキットへ向かったのだが、
食料調達などを考えて、四日市で一度降りることにした。
手持ちの大きな荷物をコインロッカーに入れ、駅の周りをブラブラ。
コンビニの一軒ぐらいあるだろう……と思ったら、ない!!!
本当にないのだ!
かろうじて、酒屋に毛の生えたような「商店」はあったが、あまり使えなかった。
このままでは、朝飯を食えずに我々はのたれ死ぬ!
そんな恐怖におびえる我々の前に、「桃太郎」なる、お弁当のチェーン店があらわれた。
「名古屋と言えば、天むす」
という、安易な考えで、連れは天むすセット(小さな天むすが五つ入ってる)を買った。
私は、普通のおにぎりセット(小さなおにぎりが六つ入ってる)を買った。
なかなかF1の話にならないが、もう少しのしんぼうを。
人の海、魂の音
四日市からはJRではなくなり、伊勢鉄道、というマイナー路線に変わる。
もうここまで来てしまうと、まわりの人間はすっかり「F1!!」している。
今年の定番アイテムは、シューマッハー(兄)愛用の「DEKRA」キャップである。
フェラーリに移籍した昨年から使用しているものだが、なかなか格好いい。
一目で、ティフォシかつシューマッハーファンだ、ということがわかる、便利なものだ。
伊勢鉄道は、普段は本当に
利用客の少ない路線らしく、
列車は二両編成や、多くて六両ぐらいでしか来ない。
一時間半くらい揺られ、降り立ったのが「鈴鹿サーキット稲生」。サーキットの最寄り駅である。
んが!!


F1の音は、生で聞かないと分からない、とよく言うが、どのくらいか。
わたしが感じてきたところでは、、
「紙コップの飲料に振動が伝わるくらい」
である。でも、実際に聞いた方が早い。
とくに異常なく、フリー走行は進行していったが、残り五分となったところで、プロスト=無限ホンダの
中野信治のマシンがエンジンブロー。大きく白煙を上げてホームストレートにマシンは止まった。
その煙が、観客席にまで流れ込んでくる。オイルのにおいがした。
これこそが、実際に見に来ている人間にしか味わえない、特別なものなのだな、と実感した。


午後の走行では、エディ=アーバイン・ラルフ=シューマッハー・オリビエ=パニスという、伏兵がトップ3を占めた。
しかし、パニスの無限エンジンがブロー。午前中に続いて二つ目である。
無限は、この鈴鹿に「S」スペックエンジンを投入した。出力はいいようだが、信頼性に難があるようだ。
われらがミカ=ハッキネンは、ヘアピンでのスピンでアタックできず。総合で14位に終わった。
フリー走行結果(総合)
| 一位 | エディ=アーバイン | フェラーリF310/B | 1分38秒903 |
| 二位 | ラルフ=シューマッハ | ジョーダン197 | 1分38秒911 |
| 三位 | オリビエ=パニス | プロストJS45 | 1分38秒941 |
| 四位 | ハインツ=ハラルト=フレンツェン | ウィリアムズFW19 | 1分39秒398 |
| 五位 | ジャン=アレジ | ベネトンB197 | 1分39秒454 |
| 六位 | ジョニー=ハーバート | ザウバーC16 | 1分39秒898 |
なんだかんだでフリー走行は無事終了。われわれは名古屋の宿へ向かった。
泊まったのは、「チサンホテル名古屋栄」。名古屋の繁華街である栄に建つ、ビジネスホテルである。
四時半にチェックインし、すぐに夕食を求めて外へ。
名古屋名物といえば「エビフライ」なわけで、われわれはエビフライの食べられる場所を探した。
一時間近く歩き回ってみつけたのが、百貨店「丸栄」の中にある、「名古屋洋食亭」。
私はエビフライと飯を、連れはエビフライとハヤシライスエビフライつきを注文した。
一口。
「……。」
「別に、ただのエビフライだな。」
「だな。」
もはや、エビフライは名古屋名物ではないのか!?
われわれは失意を胸に、店を出た。
その後は、ホテルへ戻り、十時すぎに泥のように寝た。
こうして、F1との「遭遇」の日は終わった。
だが、我々がエビフライを食べている間に、驚くべき発表がされていたのだった。